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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6945号 判決

原告

池田啓宏

ほか三名

被告

株式会社丸山園

主文

被告は原告池田啓宏に対し金四万〇、三〇〇円、原告宮島桜子に対し金一万九、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四三年七月二日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。右原告らのその余の請求および原告池田脩之助、原告池田た江の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを八分し、その七を原告らの、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告は原告池田啓宏に対し金四〇万円、原告池田脩之助に対し金五万円、原告池田た江に対し金五万円、原告宮島桜子に対し金二万六、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四三年七月二日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告啓宏は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四二年一二月一五日午後三時三五分頃

(二)  発生地 東京都府中市紅葉ケ丘二丁目一四番地付近路上

(三)  事故車 自家用貨物自動車(練馬四ま七二四〇号)

運転者 訴外阿部富美男

(四)  被害者 原告啓宏(歩行中)

(五)  態様 横断中の原告啓宏に事故車が衝突

(六)  被害者 原告啓宏は骨盤骨折、両股関節圧挫傷の傷害を蒙つた。

二、(責任原因)

被告は、加害車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

三、(損害)

(一)  慰藉料

原告らの本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み原告啓宏四〇万円、原告脩之助五万円、原告た江五万円が相当である。

すなわち、原告啓宏は、本件事故当時小学校一年生であり、前記傷害の苦痛たるや筆舌に尽し難いものであり、事故当日から昭和四三年一月九日まで府中医王病院に入院し、更に五月末まで通院して治療したが、その後二年間は定期的にレントゲン検査の必要がある状態である。

又原告脩之助は原告啓宏の養父で満六四歳、原告た江は養母で満五八歳で、老令の身でありながら原告啓宏の成長を楽しみに生活しているものであるが、本件事故による同原告の負傷のため非常に心労し、その精神的苦痛は甚大である。

(二)  付添看護料

原告啓宏の入院期間中、原告桜子が付添看護したが、その費用は二万六、〇〇〇円である。

四、(結論)

よつて、被告に対し、原告啓宏は四〇万円、原告脩之助は五万円、原告た江は五万円、原告桜子は二万六、〇〇〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年七月二日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)は傷害の事実は認めるが、部位程度は不知。

第二項は、被告が事故車を自己のために運行の用に供していたことは認める。

第三項中、原告啓宏が府中医王病院に入院したことは認めるが、その余は不知。

二、(事故態様に関する主張)

訴外阿部は事故車を運転して時速約二〇粁で前方を充分注視しつつ進行していたところ、踏切付近で停滞していた車両の蔭から原告啓宏が、突然事故車の前方二米に飛び出したもので、訴外阿部は直ちに急制動をかけたが停止し得ず、右バンパー横に衝突したものである。

三、(抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、訴外阿部には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者原告啓宏の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、事故車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者原告啓宏の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(三)  損害の填補

被告は本件事故発生後治療費等二五万〇、六九〇円の支払いをしたので、右額は控除されるべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

(一)  訴外阿部の無過失は否認する。すなわち、本件道路は幅員五・一〇米で狭く、市街地であり、人車の交通量は多く、しかも付近に小学校があるため、児童の往来も多い。そして、本件事故現場は丁字路で、近くに踏切もあるため交通が渋滞することも多い。本件事故当時も、車が五台停車していたのであるから、訴外阿部としては、車の間から歩行者が出て来ることを予想しつつ徐行すべき義務があつたにも拘らず、慢然と進行し、しかも前方注視義務をも尽さなかつたため、事故車を原告啓宏に衝突せしめたものである。

(二)  右のとおりであつて、原告啓宏に過失はない。

(三)  被告から一九万九、〇五〇円を受領したことは認めるが、右金員は治療費として受領したもので原告らの請求額から控除すべきではない。その余の金員受領は否認する。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、原告啓宏は本件事故により、骨盤骨折、両股関節圧挫傷の傷害を受け事故当日の昭和四二年一二月一五日から昭和四三年一月九日まで府中医王病院に入院し、その後、同年三月までに四回、その後同年九月までに二回同病院に通院して治療を受けたことが認められる。

二、(責任原因と過失割合)

(一)  被告が事故車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、免責の抗弁について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場付近の道路の状況は、ほゞ南北に通ずる幅員五・一〇米の歩車道の区別のないアスファルト舗装の道路と、ほゞ西方へ通ずる幅員四米の道路とが丁字型に交差し、右交差点より約二〇ないし三〇米南方に西武多摩川線の踏切があり、右交差点と踏切の中間に「園児通園路徐行」の標識があり、市街地で交通は幅輳しており、速度制限は三〇粁で、右交差点には信号機の設置はなく交通整理は行なわれていないこと、訴外阿部は南方より北方へ向つて進行し、前記踏切で一旦停止した後発進し、時速約二五粁で進行していたところ、北方より南方へ向う車両が、事故車進行方向からみて右側に、踏切の北側から五台停車しており道路右側の状況が見えない状態であり、五台目の車の背後から原告啓宏が右から左へ横断して来るのを約三米前方に発見して、急制動の措置を講じたが間に合わず、前記交差点の北端付近で道路西側より二・三米の地点で同原告に事故車を衝突せしめたこと、訴外阿部は前記交差点に進入するに際して、減速しなかつたことが認められる。

右事実によれば、訴外阿部は交通頻繁な市街地の交差点へ進入するに際して、右側に対向車が五台停車しており道路右側の状況が見えない状態であつたにも拘らず、減速することなく漫然と進行した過失が認められる。

以上の如く、訴外阿部に過失が認められるので、その余の点について判断するまでもなく、免責の抗弁は理由がない。

(三)  ところで、前記事実によれば、当時七歳の原告啓宏は停車中の車の蔭から左方の安全を確認することなく横断した過失が認められ、両者の過失割合は、原告啓宏三に対し訴外阿部七を以て相当と認められる。

三、(損害)

(一)  慰藉料

原告啓宏の傷害の部位程度、本件事故の態様殊に過失割合、その他諸般の事情を総合勘案し、同原告の慰藉料は、一〇万円を以て相当と認める。

ところで、原告啓宏の前記傷害の程度は、生命侵害に比肩すべきものとは到底認められないから、原告脩之助、同た江の慰藉料は認められない。

(二)  付添看護料

〔証拠略〕によれば、原告啓宏は二六日間の入院期間中付添看護を必要とし、実母である原告桜子が右期間中付添看護したことが認められ、その労苦は少くとも一日一、〇〇〇円に相当するものと認められる。したがつて、原告桜子は二万六、〇〇〇円の損害を蒙つたものと認められるが、前記過失割合を考慮すると、被告に賠償せしめるべき金額は一万九、〇〇〇円を以て相当と認める。

(三)  損害の填補

原告啓宏が被告より一九万九、〇五〇円を受領したことは当事者間に争いがなく、それ以上の弁済については証明がない。

ところで、〔証拠略〕によれば、右一九万九、〇五〇円は治療費であることが認められる。ところで、原告らは本訴において治療費を請求していないので、右金額を控除すべきではないが、前記過失割合に鑑み、治療費のうち約三割は原告啓宏が自ら負担すべきものであるから、五万九、七〇〇円は過払となり、同原告の前記損害賠償額から控除すべきである。

四、(結論)

よつて、被告は、原告啓宏に対し、四万〇、三〇〇円、原告桜子に対し一万九、〇〇〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年七月二日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告啓宏および原告桜子の請求を認容し、同原告らのその余の請求および原告脩之助、同た江の各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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